F91でモビルスーツの小型化を誰が決めたのか、ガンダムミステリーの一つになっています。
いまだ、ガンプラのコストダウンを目的としたバンダイ黒幕説が根強いのです。
その論争が一歩進むヒントになると思うので、出渕氏とカトキ氏の対談を紹介します。MS小型化の件で、カトキ氏は『あれは富野さんです』とバンダイから何度も聞いていたようです。
グレートメカニクス14では、元サンライズの井上氏により、MS小型化の経緯が語れています。
これらの話をまとめると、MSの小型化を決めたのはバンダイではなく富野監督だった可能性が高いのです。
概要説明:モビルスーツ(ガンプラ)の小型化は、一部のモデラーに不評だった
F91(真ん中)小さいなw pic.twitter.com/dErJvmyTvA
— セイバー (3日間滞在) (@A_rthur_SonGoku) November 28, 2019
モビルスーツは逆襲のシャアで大型化の極地に達したわけで、ニューガンダムは設定上22メートルにも及びます。しかし、F91から一転して小型化する流れになります。
設定上の全長が低くなるので、同スケールでガンプラを並べてしまうと明らかにF91やVは小さく見えてしまいます。
商品的な魅力低下につながるので、一部のモデラーから不評だったのです。
バンダイ黒幕節:小型化はガンプラのコストダウンのため
バンダイ黒幕説のきっかけを作ったかもしれない論説が、『機動戦士ガンダム宇宙世紀 vol.4 総括編』で展開されています。
機動戦士ガンダム宇宙世紀 vol.4 総括編(1999年4月発売)
ーモビルスーツは何故小型化したかー
そもそも、ガンダムの全長が18mと決められたのは、体格のいい成年男子の10倍を目安にしたため。そして、このサイズは当時としては画期的な小ささであった。
このガンダムのプラモデル化の際、主力商品のスケールは144分の1である。価格は300円。
各関節がちゃんと稼働するのも魅力で、ガンプラブームはこのスケールに支えられたといっても過言ではない。ところがガンダムがシリーズ化されるに至って一つ困ったことが生じてきた。
その後のシリーズも基本的にスケールは144分の1を主軸にスケールは144分の1を主軸に3スケールで展開していたが、MSの値段設定を維持するのが難しくなってきたのである。
例えば、Zガンダム144分の1は500円だが、さらに300円の価格を維持するためであろう、その下に220分の1というスケースが設定されている。またνガンダムになると、「いろプラ化」されたとはいえ144分の1で1000円になる。商品価格の上昇は、将来を支える低学年層にアピールしないという不安があったのだろう。その対策もあって、F91以降のMSは小型化されるのである。
そして、再び低学年層にも対象を広げよう製作されたVガンダムは、144分の1スケールで700円と設定されたのである。
引用元:機動戦士ガンダム宇宙世紀 vol.4 総括編(1999年4月発売)
モビルスーツの形状が大型化・複雑化する中、コストも上がっていきました。
MSの全長を低くして、ガンプラのコストダウンに繋げるバンダイの営業戦略だと見て取れます。全長が低くなることで、樹脂の材料費は確実に低減できますしね。
この論説は理にかなっておりネットでも支持されてますが、カトキ氏がバンダイに問い合わせたところ、全く違う答えが返ってきたそうです。
バンダイ『小型化を決めたのは富野監督』
MS小型化を決めたのは、富野監督かバンダイのどちらが決めたことなのか?
『富野由悠季 全仕事』でのカトキ氏×出渕氏の対談で、『富野監督が小型化を決めた』という話が出ています。
カトキハジメ:ちなみにモビルスーツを15メートルに縮めたのは富野さんですよね?
出渕裕:『機動戦士ガンダムF91』の時でしょ。
カトキハジメ:そうそう。バンダイに聞いても、『あれは富野さんです』という答えを何度も聞いてるから間違いない。
引用元:『富野由悠季 全仕事』メカニックデザイナー対談 カトキハジメVS出渕裕
つまり、『MSの小型化はバンダイが要望したのではなく、富野監督が先に提案した』ということだと思います。カトキ氏もバンダイから何度も聞いており、『間違いない』と確信度が高い回答をしています。
このため、MS小型化の件ではバンダイ黒幕説は少なくなったと思います。
演出の都合上、MSの小型化は監督主導で行われた?
さらにグレートメカニックvol.14では、富野監督が”新しいガンダム像”を創造するために、MSを小型化させた経緯が語られています。
この2作品において、MSは一気に小型化し、F91、Vガンダムともに15.2メートル。
一体なぜこの時点でそうする必要があったのだろうか?
井上幸一:『一口に言えば、演出上の問題です。MSが大型化するに従って、ただでさえ作りにくかった構図が限界に来てしまったんですね。例えばコックピット付近で人物に芝居をさせると、MSの顔は同じフレームに入らないし、ボディも”板”にしか見えない。
しかも富野監督は、この作品で新たなガンダム像を示すためにそれまでの”ガンダム的なもの”を意図的に崩そうとしました。それでサイズもロボットとしてのスゴさを失わない範囲で、”小さくしてしまえ”と。
当初は7〜10メートルぐらいのラフ画も検討されています。』
ー中略ー
ただそれなら、結果として富野監督の目論んだ最小サイズまで小さくならなかったのだろうか?
井上:『Z時代と同じ物理コクピットサイズの問題もあるんですが、一番大きいのはやはりプラモデルの商品サイズです。あまり小さいと、ガンプラの標準スケールである1/144、1/100でキット化した際に、商品的なパワーダウンに見えてしまうんですね。
関節駆動などのギミック面でも、極端に小さいものは技術、コストの面で難しいですし。
”じゃあどのぐらいまで小さくできるか?”という着地点を探った結果、あのサイズになっています。
この点ではバンダイさん側が大きな理解を示してくれました。』
引用元:グレートメカニックvol.14
つまり、富野監督は演出上の都合からMSを小型化したがっていました。MSが巨大化することで演出に不都合がおきました。人物をコクピット付近で芝居をさせると、同じフレームにMSの顔が入らない。
このことから、富野監督はMSの小型化を決断。当初は7〜10メートルまでの小型化を検討していたようです。
[say name=”みすてる” img=”https://paperwave1999.com/wp-content/uploads/2020/04/z3233.jpg”]F91からのMS小型化は、パトレイバーの影響でしょうね。[/say]
最小サイズまで小さくすると、商品の魅力低下やコストが逆に上がってしまうから、15メートルまでの小型化が決まったようです。むしろバンダイからは、『極端な小型化はガンプラの商品性が低くなるからやめてくれ』という反応があったと推測できます。
まさに富野監督主導のもと、MS小型化が行われたと見ることができます。
再び基準サイズに戻ったのはプラモユーザーの声だった
ただ、G、W、Xで再びサイズが上がっていきます。その理由は、『MSのサイズが小さい』と意見が寄せられたからです。
だが、順当にいけば「MSサイズの新基準」になり得ただろうこの小型化潮流、実際には前記2作品で終息してしまう。続く、G、W、Xの3作品において、MSは再びオリジナルへ近いサイズへ先祖がえりを果たすのだ。
実を言えば、その要因はプラモデル・ユーザーからの声であったという。F91とVのプラモデルでは1/100が「標準サイズ」と目され、ファンから「1/144が小さすぎる」という声が多数寄せられたのである。
井上:『製作陣もスポンサーも小型化に異議はなかったんですが、肝心のユーザーが寂しく感じてしまったんでしょうね。とくにずっとガンダムを追い続けてきて、”すべてのガンダムを同じスケールで並べたい”と思っているファンの方にとっては、違和感が大きかったんだと思います。』
こうした声によって、以降再びMSが大型化していったわけである。
引用元:グレートメカニックvol.14
つまり、90年代の早い段階でMSの小型化は不評だったらしく、早急に方向転換を強いられたということです。
まとめ|モビルスーツの小型化を決めたのは富野監督だろう
今回は、謎の多かったモビルスーツ(ガンプラ)の小型化についてまとめてきました。
ガンプラのコストダウンを目的としたバンダイ主導ではなく、富野監督が率先してモビルスーツを小型化した可能性が一番高いと思います。
小型化に関して、バンダイ側が反対しなかった理由は、ガンプラが安く作れるという目論見もあったからです。しかし、ファンからの不評で、あっという間に元のサイズに回帰していくことから、小型化はもともと会社方針ではなかった現れになると思います。まさに富野監督の思いつきだったということです。
コメント